楽園

「あぁ……可愛いよ」

君が壊れてしまっても、僕が愛してあげる。





「ザエルアポロ様」

僕の名を呼ぶ愛らしいの声。その、玲々と鈴が鳴るような声に自然と笑みが零れる。すると「好き」と、可愛らしい唇が紡いだ。その言葉に「僕もだよ」と答えてあげると、は柔らかく微笑む。そのほんのりと朱に染まる頬を優しく撫でれば、くすぐったそうに肩を縮めた。

可愛い、愛しい……壊してしまいたいほどに。
もし、を壊してしまったとしても、大丈夫。ちゃんと僕が愛してあげる。ガラス玉のように透き通った、その瞳に僕を映してくれる限り永遠に。

、おいで」

そう言って手招きすれば、嬉しそうに僕の胸へと飛び込んできた。そんなを、誤って壊してしまわないように優しく抱き留める。そしてそっと撫でるようにの髪を梳くと、気持ちよさそうに目を細めた。絡まることを知らない絹糸のような髪は指の間をすり抜けていく。
すると突然、はその表情を僅かに曇らせる。どこか寂しそうに眉を顰めたのだ。「どうしたんだい?」と聞けば、「キス、してください」と目尻に雫を溜めた潤んだ瞳で訴える。……ほんと、どこでそういうことを覚えてきたのか聞きたくなってしまう。純粋なくせして、無意識でも男の弱いところを突いてくるのだから。

「んっ……」

の柔らかい適度に潤ったその唇に顔を寄せ、そのまま口付けた。の唇から甘い吐息が零れる。何度か啄むような軽いキスの後、空気を取り込もうと薄らと開かれたその隙間に舌をねじ込んだ。そして生暖かな口内を丹念に舐め上げ、の小さな舌に自分の舌を絡ませた。僕に応えようと、必死に舌を絡ませてくるのその姿に愛しさが込み上げてくる。あぁ……可愛い。このまま食べてしまいたくなるほどに。
ピチャピチャと、互いの唾液が混ざり合う音が静かな空間を支配する。が苦しそうに眉を顰めたところで、ゆっくりと重ねていた唇を離す。すると二人を間を繋いだ銀の糸が名残惜しそうに糸を引き、そして切れた。
肩を上下に動かして息をする。目尻に涙を溜めた瞳は虚ろに頬は薄らと赤に染まり、唇の端からは深いキスの名残を滴らせている。そのあまりにも情欲的な姿に、コクリと喉が鳴った。

もういっその事、このままを食べてしまおうか。
だが何度も何度も、抱いて抱きつくして壊してしまうかもしれない。勿論、例え壊してしまったとしても、僕がを手放すことはしない。もしの方から離れることになれば……それはどうなるか今の僕には予想ができないけれどもね。
さて、どうしたものか。このまま食べてしまうか、それとも次の機会までお預けにするか。

「ザエルアポロ様……もっと、もっと欲しいです」

その言葉に思わず目を見開く。……は今なんと言った?自分の耳が腐っていなければ『もっと欲しい』と、そう言ったはず。思ってもみなかったのその言葉に、己の雄がドクンと脈打ち膨張し始めた。

、何が、もっと欲しいんだい?……きちんと言ってくれないと、あげられないね」

そうに言えば、恥ずかしそうに唇に両手を添え、頬を熟れた林檎のように真っ赤に染めた。目尻に溜めていた涙が一滴、その赤い頬を流れ顎へと伝い落ちる。その姿にまたも雄が脈打ったのを感じた。
早く食べてしまいたい……その衝動を必死に抑えながら小さく震えるの頭を優しく撫で、の言葉を待つ。

「ザエルアポロ様、私を……抱いてください……」

消え入りそうな小さな鈴の音。そんな声で発したの言葉を、僕は聞き逃さなかった。

……本当にいいのかい?」

もしが嫌と言ったところで、止めるつもりなんて更々ないのに一応聞いてみる。僕はもう、その気だ。早くこの滾る熱をにぶち込みたくてしょうがない。従属官としての姿ではなく、純粋な愛しい彼女としての姿でもなく……淫らに乱れては僕のモノを求める……そんな姿を見てみたい。抱いて抱いて、抱きつくして、の中を僕の熱で溢れるくらいに満たしたい。壊してしまうほどに。



は潤んだ瞳で僕をジッと見つめると、柔らかく微笑んで小さく頷いた。



楽園

(愛しい君を快楽という名の楽園へと導いてあげるさ。)


(20170605)