「ウ……ルキ、オラ……様?」
「……起こしたか?」
「いえ……」
どうやら起こしてしまったようで、閉じられた瞼をゆっくりと開けると俺の名を呼んだ。
「ウルキオラ様、キスしてください……」
寝起きの虚ろな、まだ夢を視ているかのような瞳で細く呟いた。
鮮やかな桜色の、艶やかで柔らかい唇にそっと自らの唇を近づける。互いの吐息が直に感じられる、あと少しで触れるか触れないかの微妙な距離。そしての唇に自分のものを重ねることなくそっと離れた。は少し驚いたような反応をしたあと、僅かに表情を曇らせた。
「二人きりの時は『様』を付けるな、と教えたはずだが?……もう一度、だ」
そう言えば、は仄かに頬を赤く染めると俯きそのまま黙り込んでしまった。今まで幾度となく身体を重ねているというのに、何故かこういうところで恥ずかしがる。そこがとても可愛らしいと、愛おしく思うところであり、こうして意地悪をしたくなるのだ。
少しの沈黙の後、意を決したかのように表情を固くしたがゆっくりとその唇を開いた。
「ウルキオラ……キスして」
「ああ」
鈴の音ように透き通り儚さを混ぜた、それでいて熱を持った甘い声。それに満足すると、また再びの唇に自分の唇を寄せる。そして、そのまま互いの唇を重ねた。
最初は軽く啄むだけのもの。そして段々と激しいものにしていく。の閉じられた唇を割り、僅かに開いた隙間に舌をねじ込む。生暖かい口内の中を丹念になぞりそして舌を絡ませ合うと、静まり返った空間にはピチャピチャと淫らな水音と荒い吐息だけが響き渡った。そして互いの唇の端からはどちらのものとも言えない唾液が顎を伝い落ちていく。
唇を重ねる。
たったそれだけの行為のはずだが、この身を襲うのは押し寄せては返す波のような甘い快楽。
うっとりと目を細め、そしてその快楽に耐えるかようなの表情に胸は震え、そして興奮を覚えた。
少しして、が苦しそうに眉を顰め始めたところでゆっくりと唇を離す。名残惜しさを残すように銀の糸が互いを繋ぎ、そして切れた。ぽたぽたと顎からシーツへと伝い落ちていた唾液は真っ白だったはずのそれに灰色のシミを作っていた。
「っはぁ……っ」
「どうした、。息が上がっている」
「それはっ……ウルキオラが激しくするから」
「それでは第4十刃の従属官は務まらないな」
「っ……」
「冗談だ。俺にとってお前以上の従属官は存在しない。無論、愛おしく思える女もだ」
女特有の、力加減を間違えればすぐにでも折れてしまいそうな儚く細い肩。壊れぬよう、そして傷付けぬようにそっとの身体を抱く。
月明かりが指す、蒼に染まる部屋の白いシーツの波間に再び二人で沈みこんだ。
Azul
(その細い身体をきつく抱き締めた。蒼に呑み込まれ、消えてしまわぬように)(20170326)