最初はそれ自体に意味などなかった。
ただの気紛れ。
その女、どうやら記憶が無いようだ。とりあえず何かに使えるだろうと側に置いてはみたが……その何かは来る様子もない。
なら……捨てるか、殺すか。
だが、いつも俺の名を呼んでは、雛鳥のように付いて回るこの女に少しの興味と愛着らしきものが湧いてくる。ので、暫くそのままにすることにした。
これが第二の気紛れ。
「よぉ、ウルキオラ」
「なんだ、グリムジョー」
突然俺の宮にやってきては不躾に話しかけてきたこの男、第6十刃グリムジョー・ジャガージャック。俺は一つ小さく溜息を付いたあと、目の前のこの男に最上級の嫌悪感を向けて返答した。
「お前が人間の女を連れていると聞いたぜ」
「……」
「なんだよ。マジかよ……」
「黙れ」
ゆらゆらと揺れるその鬱陶しい前髪と同じ薄浅葱の瞳。それを驚いた風に大きくさせると、クツクツと喉の奥で笑う声。こいつの言う通りそれは本当だが、それが何だ。別にそれによって貴様に迷惑をかけてるわけでも、何でもないだろう。面倒臭い。……それ以上聞くなと僅かばかり霊圧を上げる。が、そんなことはお構い無しに目の前の男は話を続けようとする。
「人間の女なんてどうするつもりだァ?テメェらしくもない」
「俺らしくない?……俺らしいとはどういうものだ?」
グリムジョーの言葉にふと引っかかりを覚えた。確かに、本来ならその辺にでも捨て置くか殺すかだ。それが今、気紛れという名で側に置いている。そう、気紛れだ。他に特別な感情などない。強いて言うのなら、このなんの変化もない退屈な虚圏で、退屈しのぎの玩具とでも言ったところか。記憶もないが故に抵抗することもない。飽きたら、そして面倒であれば処分すればいいだけの、都合のいい玩具―――
「ま、いい……ウルキオラをこんな風にさせちまうその女に、会ってみたいものだな」
ニヤリと薄ら笑みを浮かべる目の前の男を睨みつければ、「あー、怖い怖い」とおどけたように言って去っていった。
「またグリムジョーか……一体此処へ何度来れば気が済む」
あの後、自分の宮に戻ったはずだったグリムジョーの気配を感じた。自然と出た舌打ち。探査回路で奴の居場所を探る。グリムジョーの居場所……それは女の部屋の前だった。急ぎながらも見つからないように細心の注意を払いながらそこへ向かう。恐らく無意味だとは思うが。その場に着くと、適当な物陰に隠れて息を潜めた。部屋の扉から顔を出す女の姿に、廊下から向かい合うグリムジョー。部屋には鍵をかけたはずだったが……こいつの仕業か。
ほんの一瞬、振り向いたグリムジョーと目が合った気がした。その薄浅葱の瞳を細め、意地悪くニヤリと笑う。そんな表情を見せたあと、グリムジョーはすぐに女に向き直った。
「へぇ、アンタがウルキオラが可愛がってる女か」
「……?グリムジョー、様?」
「へぇ……俺のこと知ってんのか……なぁアンタ、このウルキオラの宮にずっと居て、ウルキオラに付いて回って、退屈じゃねぇのか?」
その質問、貴様には少しも関係のないことだと思った時、女は「退屈ではない」とたどたどしく答える。
「そうか……ん?あぁ、そういうことかよ。なぁ、その首元の……それ、どうしたんだ?」
薄らと見えた、女の首筋に散る紅い華をグリムジョーの指先がなぞる光景。女は一気に顔を紅くし、視線を泳がせる。
この目の前の光景に自分の中の何かが眠りから目を覚まし、そして蠢いては食い荒らすどす黒い感情に支配されていくのを感じた。
その手で俺の玩具に触れるな……触れていいのは俺だけ、と。
「こ、これはっ……」
「なんだ一応、ヤることヤってんだなあの堅物。……相当気に入ってんだな、アンタのこと。なら……」
グリムジョーはそこで言葉を止める、徐ろに俺の方に視線をやり、またも若干口角を上げ煽るように笑みを浮かべた後、彼女に視線を戻した。そして……
「俺も味見させてもらおうか」
「……え?」
「……ヤらせろって言ってんだよ」
もう我慢の限界だった。そもそも何故俺は身を潜めている必要がある?
全身の細胞という細胞が沸き立つ感覚。俺の玩具に手を出そうとするグリムジョーに対して。そして、警戒することなく無防備にヤツに間抜けツラを晒す女に対して。
「そこで何をしている、グリムジョー」
「おっと、ご主人様のお出ましか」
二人の間に割って入ってみれば、わざとらしく驚く薄浅葱の瞳。苛つく。貴様は最初から俺がいることを知っていただろうに。今までないくらいに込み上げてくる怒り。それによって震える空気。そしてもう一度、目の前の薄浅葱の男に問うた。
「聞こえなかったか?そこで何をしている、と聞いているんだ、グリムジョー」
燻りから一気に大きく炎を上げてゆく行き場のない感情。自身の身体に留めておくことが出来なかったそれは、少しずつ霊圧となって周囲の空気を緑に染め、侵食していく。グリムジョーに対し、早くこの場から出ていけ、と。でなければ……
「あー、めんどくせぇ。別にテメェと殺り合う気はねぇよ。ただ、からかってただけだろ」
もう冷めた、と言わんばかりの態度で、踵を返し宮の外へ、グリムジョーは自分の宮へ戻って行った。すると、とても小さな声、すぐに掻き消されてしまいそうな声で女が俺の名を呼んだ。
「ウル、キオラ様……」
「……何故、」
それに対して口を開く、が一度そこで言葉を切る。気付かれないように深く息を吸いこみ、そして吐いた。それでも尚、沸々と言いようのない怒りが込み上げてくる。落ち着こうと精一杯を尽くしてみるが、やはり霊圧の制御は上手くいくことはなく。
「……グリムジョーと話していた?」
「ごめん、なさい……その、グリムジョー様、が……」
少しの沈黙、やっと口に出来た言葉。それに対して目の前の女は先程から俺の霊圧に当てられた所為か、ひどく怯え、身体を震わせながら言葉を紡ぐ。また一つ小さく息を吸っては吐く。
また、教えてやらねばならないこの女に。
「俺の言いつけは覚えているか?」
「『外へ出るな、ここにいろ。だれとも話すな』」
「そうだ。で、お前は何をしようとした?」
女、お前は俺だけをその瞳に映していれば良い。その鳴き声を聞かせる相手も俺だけだ。
「言いつけを……破りました」
言いつけを破ったのなら、罰が必要だ。何度も何度でもその身体が、その心が理解するまで。二度と同じ過ちを犯さぬよう。だが、ただ痛め付けるだけがそれではない。二度と俺から目を逸らさぬよう、離れられぬようにその身体に刻み込む。
「そうしたらどうなるか……分かるな?」
もう分かっているだろう?
それが、お前への罰だ、女。
「はい……」
そう小さく応えると、慣れた手つきで白い死覇装に手を掛けそれを脱ぎ始めた。女が上着のファスナーを下ろせば透き通った柔らかい肌が顔を覗かせる。そして袴を下ろすと、そこには透き通った肌を晒し裸になった女の姿。唯一下半身の中心を覆う下着があるが、それはあまりにも頼りないものだ。
「で、その次は……どうする?」
女は俺の袴に手を掛けた。少し指先を震わせながらも下半身を覆うものを取りさっては跪き、その中心にある雄の部分を優しく掴んで、そして舐め始めた。赤く小さな舌が、膨張し太さを増した雄の脈打つ筋に沿って、這う。女の唇から滴り落ちる唾液、快楽を求め先を急ごうと迸る体液、その両方が重力に従って床に落ちた。それらは床に小さな水溜まりを作っていく。
この女も興奮してきたのか、顔を真っ赤に上気させて、乳首は立ち、目は虚ろだった。イヤラシイ女だ。監禁した相手のモノを舐めて自分もイイ感じになっているのだ。
「うる、きおらさまっ」
「なんだ。もっと欲しいのか?」
動かぬように女の髪を掴み、身体を少し引いては一気にその喉元目掛け挿入した。女は一瞬にして虚ろな目を丸く大きく見開かせ、苦しそうに顔を歪ませた。そんなこともお構い無しに俺は体を引いてはまた、喉元に押し付ける。喉の奥に当たる瞬間、何とも言えぬ快感が襲ってくる。また女は目を虚ろにさせて、唾液を口元から滴らせては舌を動かした。ピチャピチャと、唾液が、雄の先端から先走った体液が混ざり合い卑猥な音を部屋に響かせる。
「っルキ……オラ、さま……私もう……」
「もう?その続きは何だ?それでは俺には分からんな」
「ほ、欲しいですっ」
「何が、だ」
「っ……ウルキオラ様の、これがっ!」
「きちんと最初から最後まで言え」
「ウルキオラ様のっ……この、大きくなった雄を私のイヤラシイ場所へ入れて、くださいっ」
「……満点とは言えないが、まぁ良いだろう」
跪く女の手掴んで引っ張り、立ち上がらせると、そのままベッドの方へ押し倒す。そして女の下着を取りさろうと下半身へ手を伸ばした時、粘液が指先にまとわりつき、そして濡らし、汚した。俺のモノを舐めただけで、下着を役に立たないものにするくらいに濡らしていたのだ。それはもう、慣らす必要の無い程の……例えるのなら大洪水だ。女の下着を取り去ると、それはもう早く入れてくれと言わんばかりに蜜がどんどんと溢れ出てくる。指で押し開き、蕾を軽く弾けば、甘い声と共に女は身体を震わせた。どうやらイッたらしい。
間髪入れずに、その蕾の下、雄を受け入れる準備が既に整えられた蜜壷のその奥へ、一気に雄を突っ込んだ。
「あああっ!!」
喘いではまた、体を震わせ達した。そしてギュウギュウと容赦なく雄を締め付ける。口からははしたなく涎を垂らし、目は快楽に溺れ落ちて虚ろだ。
「そんなにイイのか?俺のが」
そう問えば、女はそこで快楽に耐えるような表情を浮かばせながら必死に首を縦に振った。
「そうか、なら……もっと喘ぎ、求め、俺に溺れろ。そして……俺だけを見ろ」
紅い華の散った女の首筋。グリムジョーがなぞった跡に沿って舌を這わせてはそこへ噛み付いた。それに女は小さな悲鳴を上げる。
重なり合った下半身は、強く、それでいて弱く……緩急をつけながら、奥の入口目掛けて腰を動かす。その動きに合わせて女は身体を震わせながら、喘ぎ鳴き続けた。
何度も何度も奥を責め立て、快楽に溺れ酔う女の瞳は俺だけを映す。
ああ、それで良い、この感覚だ。抗うことなく、その身に俺を刻み込め。俺が、俺だけが……お前を生かしそして、イかせることが出来る。
もし、俺から離れるようなことがあれば、その時は……
下半身に全身の血液が集まり、放出したいと、何かが雄の先端を叩く感覚。抽送を先程よりも早く、激しくし責め立てていく。女は狂うように鳴き、そしてその小さな身体を揺すった。
「ウル、きおら、さまっ!!あなた、のを……っ」
ください、と消え入るような声で聞こえたそれを合図に、濡れそぼった女の蜜壷のそのまた奥に欲を吐き出した。俺も女も小さく身体を震わせてはその快楽に身を委ねる。が、女はその熱に浮かれ快楽に堕ちた瞳を段々と閉じていく。そして、動かなくなった。
目の前で気を失った女。何となく、それの額にそっと口付ける。空っぽの胸が何かで満たされていくような感覚を覚えた。
その『何か』が執着心、支配欲、独占欲……というのならそれもいいだろう。
籠の中の鳥は鳴く以外を知らない―――
それで良い。
その瞳に俺だけを映し、俺を求め、そして溺れ、堕ちていけばいい。
それでも結局、気紛れと言い聞かせていただけで、一番溺れているのは俺の方、か。
金糸雀の鳴くほうへ
(俺はこれ以外に『愛し方』を知らない)(20170402)