Mundo

夜明けなど訪れぬ常夜の世界。
ふと瞼を開け目覚めても、朝はまだ遠い。





体温でまだ暖かいベッドからゆっくり起き上がり、ベッドサイドの水差しからコップに水を注ぐ。そしてそれを一気に飲み干した。乾ききった喉を冷たい水が通っていく。その感覚が妙に心地よかった。
すると、控えめな音で部屋のドアをノックする音が聞こえた。こんな時間に俺の部屋を訪れる人物は一人しかいなかった。俺の従属官、そして大切に思う女だ。

「あの……ウルキオラ様、まだ起きていらっしゃいますか」
「ああ、入れ」

絹糸のように柔らかく優しい声が、ドア越しに小さく聞こえた。その声に短く返事をしたあと、が待つドアを開けた。開けると廊下の明かりが少しの眩しさを感じさせ、思わず目を細める。そして目の前にはの姿があった。その表情は安心しきったように頬を緩ませていた。が、それも少しの間だけだった。すぐにの瞳は不安を携えた色に変え、悲しそうに眉を顰めた。何かあったのか……

「すみません、お休み中でしたか」
「いや……」

俺の顔をじっと見つめ、はそう言った。そんなに寝起きの不機嫌そうな顔をしていたのかとも思ったが、(そもそもいつも不機嫌そうと言われているが)自分の纏う死覇装が乱れているのに気が付いた。それを軽く正しながら、とりあえず否定を伝える。そんなことよりのことだ。

「それより……、何か用があったんだろう?」
「その、……えっと、……あの」
「……?」

何かあったのかと問えば歯切れの悪い答えが返ってきた。俯き、どこか恥ずかしそうな表情。その手はもじもじと、どこか落ち着きのない感じだ。何を伝えたいのか分からず、続いてまた何かを伝えようとしているの言葉をじっと待つ。

「その……寂しい、というのでしょうか。あなたが恋しくなっ……!?」

が言い終わる前、その落ち着きなくもじつかせた片手を手に取ると、そのまま自分の方へ引き寄せた。扉が閉まる音、突然のことで驚いたと思われるの短い悲鳴が部屋に小さく響く。廊下から差す明かりは途絶え、部屋は再びほんの少しの暗闇と静寂に包まれた。唯一、窓から差し込む控えめな柔らかい月明かりが、最低限の常夜灯のような役割をしていた。

「ウルキ、オラ……さ、ま」
「なら……寂しいなど、そんな感情抱かせぬようにするまでだ」

胸の中で俺を見上げ大きな瞳を更に大きくさせたが俺の名を呼ぶ。愛しい、可愛らしい……と自分でもらしくない言葉だと思ったが、こんなを見るとそう思わずにはいられなかった。安心させるように片手ではの柔らかい髪を撫でるように梳き、もう片方は背に手をやり、そしてきつく抱き締める。

「あと……折角の二人だけの時だ。様付けはやめろ、

そう、ここには俺との二人しかいない。邪魔するものもいなければ誰かに遠慮する必要も無い。今この場では十刃と従属官ではない……ただの男と女、だ。

そのまま二人で白いシーツの海に身を投げ出す。そして僅かに冷え始めていたシーツを二つの体温で温め合う。朝が訪れぬ常夜の闇に紛れ、互いの身体を重ね絡ませ合って。
俺の名を呼ぶの愛しい頬にそっと口付ければ、恥ずかしそうに顔を仄かに赤らめ、俺を優しい色の瞳に映しては柔らかく微笑んだ。



Mundo

(二人だけの世界は、誰も邪魔はすることはできない)


(20170402)