Anemona

「ねぇ、もし……もし明日世界が終わってしまったら、どうする?」

ベッドに座りながら本を読む、隣の無愛想な彼に聞いてみた。





「くだらんな」
「え?……それだけ?」

彼は本に視線を向けたまま、一言そう答えた。私は彼の従属官だけれど、一応恋人である……たぶん。彼がいつもそっけないのは当然知っているし、気の利いたことを言える人物ではないことも勿論、理解しているつもりではいる。けれど、いくらそういうものだと分かってはいても、それでもやはり少し寂しくはあるもので……思わず、本音を返してしまった。

「それ以外に何がある?」
「そうを言われてしまうと……」
「……」
「……」

ほんの一瞬、彼は本から視線を外し怪訝そうな表情を向けると、一言残してまた本へと視線を戻した。ここまで言われてしまったら何も言えなくなる。そうだよね、いつもの彼だ、と諦め気味に彼から視線を外し、そこで会話が終了した。その後は長い沈黙。どちらも声を発することなく、ただ部屋に響くのは、淡々と彼が本のページを捲る無機質な音だけ。私はただ、部屋の窓から見える偽りの青空の、風に流されていく白い雲をぼーっと眺めては、その数を数え始めていた。



「明日、世界が終わってしまったら……か」
「ウルキオラ?」

沈黙を破ったのは彼だった。小さく息を吸い、そして吐くと顎に手を置き、少し考え込むように言葉を発する。窓から彼に視線を戻し彼の名を呼べば、それに応えるように再び唇を開いた。

「ならば、今日この時を……、お前と共に過ごす。世界が終わりを迎えるその瞬間まで」

彼と目が合った。優しい眼差しで私を見つめる深いエメラルドグリーン。心做しかその表情はとても柔らかく、その口元には微かに笑みが浮かんでいる気がした。すると徐ろに彼はその蒼白の腕を伸ばす。少しひんやりとした彼の体温、私の頬に触れた指先。それは流れるように頬から顎先へと滑った。その指先によって顎を持ち上げられ、上へと向かされる。更に身近に感じる彼のエメラルドグリーンには私が映っていた。

「こうしてお前を愛そう」

更に近付く彼のエメラルドグリーンの瞳。薄い唇から微かに漏れる吐息が分かるほどの……そんな距離。そのままにゆっくりと彼の唇と私のものが軽く触れては、深く重なり合った。



Anemona

(言うまでもない。故にそんな問いは『くだらない』と言ったのだ)


(20170404)