私が、貴方が、今此処で生きている証。
二人重なり合い、熱を交わし合ったあと……白いシーツの海に身体を投げ出しては互いの身体を密着させあっていた。彼は細くも男らしさを見せる大きな腕で私を包み、そのまま髪を梳くように私を優しく撫でる。私は彼のその青白い腕に包まれながら、4の刻印が刻まれたその胸に頬を寄せる。そして彼のその左胸が奏でる規則正しい心音を聞きながら、先程までの行為の余韻に浸っていた。
彼の心音。それは私にとって、とても心安らぐものだった。トクントクン……控えめに生を主張する音。どこか懐かしさを感じさせるような……そんな音。
「ウルキオラの鼓動を聞いてるととても安心する」
「……そういうものか?」
私がそういえば、彼はエメラルドグリーンの瞳を僅かに細め怪訝そうな表情を浮かべた。そんな彼に向かって「そういうものだよ」と返せば、少し考えたあと「何故だ」と小さく呟いては眉を顰めた。そんな彼に、誰が言ったか、どこで聞いたか全く覚えていないけれど、心の片隅に置いてあった話をしてみる。
「確かね、生まれる前、お母さんのお腹にいる時にお母さんの心音を聞いていてそれを思い出すから安心する……だとかなんとか」
「母親の腹の中……?そんなもの……」
知らんな、と一言、くだらないと言わんばかりの声音で言い放ち、エメラルドグリーンの瞳を伏せた彼。
私たちも遠い過去、もしかしたら……お母さんのお腹の中にいた時があったかもしれない。そんな記憶、少しも思い出せないし心当たりもないのだけれど……
「だがまぁ、俺もの鼓動を聞くと、落ち着く」
「ちょっ……ウルキオラっ」
突然、彼が身体の向きを変えた。私は組み敷かれる形になり、目の前にはウルキオラの顔。そうかと思ったら彼が視界から消え、素肌の左胸に冷たい感触。それに思わず体を震わせる。彼の冷たい頬が素肌の左胸に充てがわれていると理解した時、その冷たさが小さな刺激に、密着感が恥ずかしさを呼び……頬が身体が熱を帯びていく。そしてそれと同時に自分の鼓動が段々と早く、高まっていくのを感じた。
「穏やかなものもいいとは思うが……こうして乱れた鼓動を聞くのも、中々にイイと思うが?」
「なっ……」
「俺の手での鼓動の音が変わる感覚がなんとも心地良いな」
そう言って彼は顔を上げる。彼のエメラルドグリーンは最奥で欲情の色をゆらゆらと揺らめかせていた。情事の時と同じその瞳。獲物を見つけそれを喰らうのを今か今かと待ち侘びながら、その時を狙っているかのような。獣の瞳。
「ちょ、ま、待って。もう私……っ」
「無駄だ。、お前に拒否権はない」
その瞳の色に先の展開が見え、慌てて制止の声を上げるが、それも虚しく彼の唇で塞がれてその先を言うことは出来なくなった。
愛を刻む鼓動
(この先、ずっと、愛しき貴方の鼓動を聞いていられますように)それは甘い20題:01.鼓動
(配布元:確かに恋だった)
(20170409)