とある日の朝の出来事

目の前にはエメラルドグリーンの瞳を瞼で閉ざし、静かに規則正しい寝息を立てる上司兼恋人(と言っていいのだろうか……)の姿。
彼は本当に寝起きが悪い。いつも不機嫌そうな表情をしているけれど、寝起きが一番最高に不機嫌丸出し。パッと起きない上にこれなのだから、本当に面倒臭い。それでも今日は藍染様からの呼び出しがあるのだ。そこまで重要そうな要件ではなさそうだけれども、遅れるわけにも、そうさせるわけにもいかない。
そろそろ彼には起きてもらわなければ……

「ウルキオラー!朝だよ!あさー!」
「……煩い」

軽く肩を揺すりながら言ってみるが、眉を顰めた彼から返ってきたのは、不機嫌な……掠れた低音を響かせたこの一言。煩い、って……

「あの、そう思うなら起きようよ」
「……」

言ってるそばから再び静かな寝息が聞こえ始め、思わず小さく溜息を吐いた。
藍染様に怒られるのは嫌だ。過去に一度だけ同じことがあったけれど……あれは二度と体験したくない出来事だった。怒ってなさそう……とても穏やかそうに見えるのに、藍染様の放つ霊圧もその瞳の色もとても冷たいもので、そのまま凍死でもしてしまうのではないかと思った。……冗談ではなく。それでも目の前の彼はケロッと一言謝罪をして終わらせるのだから、本当に憎たらしい。少しは従属官の身にもなって欲しいものだ。
仕方ない。と、肺に溜まっていた息を全て吐き切り、その後深く吸い込む。そして、口を開いた。

「寝ちゃダメー!って……あっ」

彼に対して大声で放った言葉は、最後まで言うことは叶わなかった。おもむろにシーツの中から伸びてきた白い腕。それに手首を掴まれるとそのまま引っ張られ、ベッドへ雪崩込んだ。彼の、男を感じさせる筋肉。けれども引き締まったその身体の感触。ほんのりと温かさを感じるシーツの温度。そして……至近距離に、眉を顰め目が据わっている最高に不機嫌な男の顔。

「ちょっ……ウル……」
「黙らないのなら、その口塞ぐまでだ」

彼がそう言った瞬間、唇に乾いた何かが押し付けられた。……彼の唇。舌で唇を割られると、水分を求めるかのように口内を丹念に舐め回す。何度も何度も。それは必要以上の唾液を生み、互いの口に収まりきらなかったものは溢れて顎を伝い落ちた。

「やれば出来るじゃないか。そのままでいろ」

やっと離された唇。息は上がり酸素を求め、魚のように口をパクつかせる私に対してそう言い放つ彼。ほんの少し頭にきたけれども、これで彼が起きてくれるのなら、そんなの些細なこと。これで無事に藍染様の呼び出しに間に合うし、私は叱られることもない、全て丸く収まる……と思った。が、

「俺、は……寝る……」

たどたどしくそう言った彼は虚ろなエメラルドグリーンを瞼で閉ざしてしまった。呆然とする私の横で寝息を立て始めた彼。しかもいつの間にか、ご丁寧に両腕でがっちりと私をホールドしていた。……私を離す気はこれっぽちも無いらしい。
藍染様に叱られる……けれども、どうにもできそうに無くて。もう、どうにでもなってしまえと、半ば諦め気味に瞼をゆっくりと閉じた。

彼との少し遅めの二度寝は、なんだか心地良く、とても幸せな気分にさせた。



とある日の朝の出来事

(彼に言う『おはよう』は、もう少し後でも良いよね)


それは甘い20題:04.おはよう
(配布元:確かに恋だった)
(20170411)