海馬コーポレーションが経営している洋菓子店の試作ケーキを頬張りながら、今日学校であったことなどをあーだこーだ話していたの声がピタリと止んだ。書類を処理しているオレの頭が軽く痛くなるくらいには、煩いくらいによく喋っていたというのに。さては……腹でも壊したか?こちらが余裕で顔を背けたくなるくらい、美味しそうにパクパクと何個もその口に放り込んでいた。……腹を壊すのは当然だろう。
「おい、大丈夫か?」
一向に動く気配がないのでさすがに心配になり、プレジデントチェアから立ち上がりの座るソファーへ。しかし、お腹を壊して苦しんでいるわけでもなんでもなかった。幸せそうに静かな寝息を立てていたのだ。
「寝ている……」
このオレと居るというのに、こいつは……。まぁ、最近勉強続きだったからな……疲れているのだろう(それはこいつの自業自得だが)それにしても、なんて幸せそうな顔して眠っているのだ……しかも口元にさっきまで食べていたケーキのクリームまでくっ付けている。
そっと顔を近づけると規則正しい寝息が聞こえた。さらに近づけると柔らかそうなぷっくりとした桃色の唇。今まで何度ものその唇にキスをしてきたというのに、こうまじまじと見ると何故だか気恥ずかしくなってくる。特別何かをしている訳では無いのに、顔が火照り始めてきているのを感じた。
何となく……の口元のクリームひと舐めした。その行動がさらに恥ずかしくさせている気もしなくもなかったが、やってしまったものは仕方がない。舐め取り、その舌にのった白いクリームはすぐに体温で溶けて口の中に消えていった。
「甘い……」
甘かった。クリームの甘さもそうだが、それ以上に甘く感じるのは何故だろうか。実はは砂糖で身体が構成されているのでは……そんな馬鹿馬鹿しい考えを巡らせつつも、またの唇を舐めた。当然そこにはクリームなどもう無い。まるで中毒にでもなったかのようにそこへ吸い寄せられては舐め、そして小さく口付ける。散々甘いと言っておきながら、何故か止めることが出来ない。それは甘い甘い何処かの高級な砂糖菓子よりも、甘美で愛しくて、大切で……オレの心を掴んで離さないものだからだろうか。
「んっ……」
ふと、が小さく喘いで身じろぐ。それに慌ててから離れるが、また再び規則正しい寝息を繰り返し始めた。……危なかった。こんなことをしていたとに知られでもしたら……。笑って許してくれそうな気もするが、オレが知られたくない。とりあえず、まだ眠りの中だということに安心し始めていると、が柔らかく微笑んだ。一瞬、ドキリと心臓が跳ねたが、どうやらはまだ夢の中のようだ。
「どんな夢を見ているのだろうな……」
夢の外でも微笑んでしまうくらいに幸せな夢なのだろうか。もしその夢に……の隣にオレがいたのなら嬉しいが。
まぁ……が眠りから目覚めた時、それを聞くのが楽しみだ。
ハニーガールは夢を見る。
(甘い彼女は夢の中)それは甘い20題:07.はちみつ
(配布元:確かに恋だった)
(20170411)