その内緒話は大きな告白

泣き止んだ空の下、重い雲が消え、澄んだ青空を映す水溜りを爪先で蹴る。すると、揺れては広がる波紋が水溜りの空を歪ませた。
思わず鼻歌が零れ、足取りが軽くなる……そんな雨上がりの空。

「晴れてはしゃぐなど子供だな」
「だって久々じゃない?青い空だなんて」

隣を歩く幼馴染が鼻を鳴らしてそう言うので、軽く反論する。
梅雨の季節の中、久々の青空。雨の後のきらめく景色に、近づく夏を感じさせる眩しい日差し、午後の並木道を通り抜ける柔らかい風。その光景は梅雨の憂鬱な気分を吹き飛ばすのには十分なものだった。
ふと、頭上から降ってきた雫が頬を濡らす。また雨が降り出したのかと思って慌てて上を見上げると、揺れる木の葉の隙間から見えるのは青空。するとまた雫が頬を濡らし、そして伝い落ちた。

「木の葉から滴り落ちる雫だな」

そう言って瀬人は手に持つ紺色の傘を広げた。
「傘、さすの?」と聞けば、「一応、だ」と返ってきて、傘の中に入るように促される。……瀬人もこういう気遣いをすることもあるんだ、と思うのと同時に、傘の中で急に縮んだ距離感になんだか気恥ずかしくなって頬が熱くなる。相合傘……これではまるで恋人同士だ。恋人でもない、ただの幼馴染の関係……そうでなくとも異性とこんなに密着したことなんてないのに……。そう考えれば考える程に幼馴染である瀬人のことを意識してしまい、頬は更に熱を上げ、胸の鼓動は早くなっていく。
そんな中、瀬人に小さくお礼を言えば、「何赤くなっているんだ。これくらいのことで」と鼻で笑われてしまった。




「しかしこれだけ密着していたら、内緒話をしても誰にもバレないだろうな」
「……内緒話?」

突然話題を変えた瀬人の方を見上げれば、傘から零れる雨粒できらめくコバルトブルーの瞳と目が合った。すると瀬人は悪戯そうに微笑んでは話を続ける。

「ああ、そうだ。特別に話してやろうか」
「うん、聞きたい」
「そうか……」



「―――――」



耳元で、吐息交じりの低音が紡いだ言葉。その言葉にこれでもかと言うくらいに頬の熱が増したのを感じた。それはあまりにも衝撃的で、思いもよらない言葉だったから。頬の熱はそのままに、瀬人の方へ視線を向け声を上げれば、瀬人の骨ばった長い人差し指が唇に押し当てられた。

「え?瀬人!?それはどういう……っ」
「『内緒話』だろう?そんなに顔を赤くして大声を上げたら内緒ではなくなる」
「そ、そうだけど……」
「言葉そのままの意味だ。返事は後で聞こう、俺の家でな」

そう言って、口角を僅かに上げニヤリと笑う瀬人。

……瀬人が私のことをそんな風に想っていただなんて、少しも思わなかった。だから私は瀬人への気持ちは心の奥へと仕舞い込んで、幼馴染を通そうと思っていたのに。でもそんなことはもうしなくていいんだ。だって……彼が言った言葉は……。


『俺はお前のことが好きだ』


その言葉に、自然と笑みが溢れ胸の鼓動は弾んだ。



その内緒話は大きな告白

(もちろん、私の答えは……)


それは甘い20題:09.内緒話
(配布元:確かに恋だった)
(20170510)