彼はいつもと全く変わらない表情で一言、そう言い放った。
「あの……何を仰っているのか私には分かりません」
「あぁ?何ってそのままの意味だろーが。まさか本気で分からねぇとか言い出すんじゃねぇだろうな?」
廊下で出会い頭に何故こんなことを言われなければならないのか。私に対してヤる、と言うからには……殺されるようなことはしてないから、その……男と女がゴニョゴニョすることなのだろう。たぶん。自分の直属の上司であるウルキオラ様は、一切そんな素振りを見せないから分からなかったけれど、どうやら性欲は破面にもあるみたいで。けれど……それを堂々とこんな所で、特別な関係でも何でもない女に相手を頼むのは如何なものか。
……とにかく、これはただの冗談だと思いたい。
「意味は分かります!!ただ、何故突然そんなことを……」
「他人のモノっていうのはよ、奪いたくなるもんだぜ?」
「はい?」
他人の……モノ?それがどういう意味合いなのか、何を指しているのか分からずその発言に呆気にとられていると、「ウルキオラと付き合ってんだろ?」と分かりやすく教えてくださった。はい?……だから何故そうなるのか。彼の思考回路、というか……その発想力、私には無いものばかりで理解に苦しんだ。
「私はウルキオラ様のモノでもなんでもありません。彼に仕える従属官……ただそれだけです」
「んだよ……面白くねーな。……だがまぁ、なんの気兼ねなくヤれる訳だ」
「な、なんでそうなるんです!全力でお断りしますから!」
「まぁ……嫌がる女を俺の手で善がらせるのは最高に興奮するだろうな」
「この!ド変態!!」
怒りやら戸惑いが沸点に達し、一瞬我を忘れ思わず叫んでしまったのが今の言葉。しまった……と我に返った時には既に遅かった。目の前の彼はスッと目を細め、その形の良い口角をいやらしく上へとあげた。咄嗟に謝ろうと口を開きかけるが、それより先に彼が発言したことによって、私の声は言葉になることなく喉の奥の方へと押し込まれた。
「おいおい、そんな言葉遣いでいいのかよ?ったく……ウルキオラはちゃんと教育してねぇのか?なら、代わりに俺が教え込んで変えてやるよ。テメェを従順なメス犬にな」
「ちょっ……やめっ」
彼は言い終わるや否や、私の片腕をきつく掴むと壁へ押し付けた。背に伝うヒンヤリとした大理石の壁の感覚に、思わず身体が小さく震える。
そして、ふと目が合った彼の薄浅葱の瞳。瞳の奥底に興奮の赤い色を滲ませた、まるで獲物を狩るような鋭いものだった。彼はその瞳の中に私を捉えたままジッと見つめる。それに対して離してくれ、と身じろぐけれど、もう片方の腕も掴まれ壁に押し付けられたことによって、一切の動きを封じられてしまった。
「あぁ?止めるわけねぇだろ。これは『教育』だ」
「っ……」
耳元で吐息混じりに囁かれた低音が私の耳を犯す。お前の全てを奪い、食らい尽くしてやる……とそう言わんばかりの色を持った音だった。
あの後、強制的に連れてこられた場所は第6十刃の宮の中の一室。薄暗く窓もない、冷たい色の部屋の中に一つベッドがあるだけのシンプルすぎるもので。分厚い壁に包まれたこの部屋では叫んで抵抗しようとも、快感に身体をくねらせ甘い声を漏らしたとしても、それが外に漏れることはなさそうなものだった。まるで一つの目的のために作られたとでも感じさせる部屋。もしかしたら、彼はこうして女を連れ込んでは夜な夜な行為に勤しんでいたのかもしれない。
それなのに私は……。いくら相手が十刃の一人だとはいえ、ここまでノコノコとついてきて……
「おい……そんなとこに突っ立ってないでそろそろ抱かれる覚悟決めろよ。その心も身体も奪い、元には戻れねぇくらいに溺れさせてやるよ。俺にな……」
「お、お断りいたしますっ!!」
「めんどくせェな……ま、いいけどよ」
「っ……!?」
視線の先に立っていた彼が一瞬にして消えた。そして真後ろに彼の霊圧を感じたと思ったら、背中をスッ、と何かがゆっくりとなぞっていった。その感覚に思わず身体を跳ねさせると、クツクツと喉の奥で笑う声が聞こえた。
「どうせ、くだらない考えを巡らせていたと思うが、一つ言っておく。この部屋に入れたのはテメェが初めてだぜ?……それほど気に入ってるってことだ」
「そんな……こと」
「有り得ないってか?……いいぜ?そう思っていても」
後ろから伸びてきた手が上着のファスナーの金具に触れた。粗暴な性格のわりに綺麗な長い指先がそのまま金具を掴むと、ゆっくりとファスナーを下ろしていく。耳に届くのはジジジ……と低い響き。流石にそれ以上はマズイと慌てて離れようとするけれど、彼のもう片方の手が腰をがっちりとホールドしていた。いくら身体に力を込めて動かそうとしても、それはびくともしない。
「は、離してくださいっ」
「はっ、それは叶えられそうにない願いだな。俺はその気だぜ?」
彼との密着度が増したと思ったら、背に硬い何かが当たった。私も子供ではない……流石にその何かがどういうものなのかは分かる。欲を解放する瞬間を今か今かと待ち侘びている膨張した雄。男性のそれを意識することなんて……しかもこんなにも間近でなんて今までなかった。……そう思い始めたら段々と顔が熱を上げていった。それはもう、顔から火が出てしまうのではないかというくらいにまで。
「こんなんで顔を真っ赤にしてんのかよ。可愛げがあるじゃねぇか」
耳元に甘い吐息がかかる。艶のある低音が言葉を紡ぐ度に、耳の中までねっとりと舐め回されているかのような感覚に陥る。その感覚に無意識に自分の口から漏れる、言葉を持たぬ小さな声。それに慌てて後ろの、彼の顔を見上げた。視線が合った薄浅葱の瞳は、それを薄く細めニヤリと楽しそうに意地悪く笑う。
すると、胸元までで動きが止まっていたファスナーの金具を持つ彼の手が、一気に、勢いよく下へと下ろされた。そしてそのまま上着を剥がされ、それは床へと放り投げられた。
胸を包むだけのブラジャーだけになった上半身。冷たい空気と彼の舐めるように見つめる視線が肌を撫でては身体を震わせていく。
抗議の声を上げることも忘れ呆然としていると、後ろからまた甘い声が降ってきた。
「なんだよ、急にしおらしくなっちまって。抱かれる覚悟が出来たってか?」
「ち、違っ……っ!?」
否定の声を最後まで紡ぐことは叶わなかった。彼の大きな手が口元に宛てがわれ、そのまま塞いだからだ。
ふと真横に視線を向ければ、僅かに見えた薄浅葱の髪。そしてそれは私の頬を撫で上げた。その急な行動に不安になりかけていると、生暖かいねっとりとしたものが首筋を這う。彼の舌だった。ゆっくりと時間をかけながらそれは首筋から耳へと流れていく。耳朶は甘噛みされ、耳の中まで丹念に舐め回された。
こんなことをされて嫌なはずなのに、身体の熱は更に高まって、熱さでどうにかなりそうだった。身体の中心が更なる刺激を求めて甘く疼きだす。それは彼のこの行為を拒否しようとする心まで呑み込んでは汚していった。
一瞬、身体が大きく震えた。身体の力が抜け、視界に映るものがグルグルと回るような感覚。そして不気味なほどに静かなこの部屋に響くのは、荒い息遣い。
「ただ首と耳舐めてただけなのにイッたのかよ。淫乱な女だな」
「そ、そんなん……じゃ……」
「おいおい、息が上がってるじゃねぇか。大分大人しくなったな。どうせもっと欲しがってんだろテメェの身体は」
「……っ!?」
腰を掴まれたままベッドに運ばれるとそこに放り投げられた。弾むベッドに軋むスプリング。間髪入れずに彼の手が胸を覆うブラジャーを引き千切る。ブチブチと不快な音をたて、覆い隠す役割を果たせなくなったブラジャーはベッドに転がる。そして彼は二つの膨らみの一つを鷲掴むとそれを揉みしだき、もう片方の突起を口に含んでは転がし始めた。突然襲ってきた強い刺激を受け止めきれずに、大きく悲鳴を上げれば、気分を良くしたのか更に激しくしてきた。与えられる大きな刺激の波に、浮かぶ涙を堪えながらただ、耐えることしか出来なくなっていた。
「や、やめて……ください」
「そう言いながらも身体の方は正直みたいだぜ?……こんなに乳首を固くして勃っているのにな。さて、この状態だと下は洪水状態か?」
「え、だめ、下は……っ!」
白のロングスカートを捲し上げようとする彼にそう言うけれど「そう言われたら見ないわけにはいかねぇな」と、そのまま手を止めることなく上げられてしまった。
知っていた。彼の言う通り『洪水状態』だということを。与えられる甘い刺激に陰部を覆い隠す布も、びしょびしょに濡れ本来の役目を忘れ去っていることを。
彼は少し驚いたように一瞬、薄浅葱の瞳を大きく見開く。そして喉の奥で笑い始めた。私はそのあまりの恥ずかしさに、彼から視線を外し逸らす。
「おいおい。こんなに濡らしてるじゃねぇか。そんなに気持ちよかったのかよ?なぁ?」
「そ、んなことないっ」
気持ちよかったのか、そうでなかったのか……そんなもの火を見るよりも明らかだった。快感に耐えようと、閉じた筈の唇から薄らと漏れる甘い声。そしてこんなにも濡らしてしまうほどの快感の波に打ち震えていたのだから。それでも認めたくなかった。まだ、私は堕ちていない、と。けれども身体は正直だった。
「そんなことねぇ、……か。なら、気持ちイイと言わせてやるよ」
彼がそう言ったあと、下半身の蜜壷を襲った異物感と圧迫感に思わず小さな悲鳴が出た。僅かにずらされた使い物にならなくなった下着。その隙間から彼の長い指が一本、蜜壷に埋まったのだ。蜜壷の中を掻き回され、軽く引っ掻かれ……焦らすように与えられる小さな快感。ふと太股へと自分の体液が伝うのを感じた。もっと、もっと太いのが欲しい……そう泣いて懇願しているかのような……。
「指一本じゃ足らないか?欲張りだな、テメェの穴は……。ならくれてやるよ、指なんかよりもっと良いモノをな」
すると彼はおもむろに服を脱ぎだした。上着も袴も全て脱ぎ姿を現したのは、程よく筋肉がついた引き締まった体躯。そして下半身の中心は、太く硬いものが脈打っていた。
それを見て一瞬で我に返った。あまりのその迫力に後ずさろうとするが、ベッドフレームに阻まれてしまう。後ろがダメなら横だと身体の向きを変えようとした時、彼の長い指先が私の顎を捉えた。それによって半ば強制的に彼と視線が合う。……逃げることは許さない、と捕食者の色を浮かべる薄浅葱の瞳。寒さを感じさせる色の筈なのに、その視線はどこか熱く感じた。滾る欲望を抑えながら、それを解放する瞬間を息を潜めて待ち構えているようなそんな熱。そんな瞳に見つめられ、動くことなんて少しも出来やしなかった。
すると、段々とその瞳が近づいてきた。それに咄嗟に瞼を閉じると、唇に柔らかいものが触れた。それは彼の唇だった。最初は舌で舐めるようにされる口付けだったが、段々と激しいものへと変わっていく。舌で唇を割られ、口内を、歯列を丹念に舐め回され、犯される。舌を絡め取られると、吸われ、甘噛みされ弄ばれた。唇の端から溢れ出る、互いのものが混ざった唾液は、顎を伝い、ぽたぽたと音を立て落ちていく。
もう蕩けてしまいそうだった。彼の思いのままに激しく扱われていることにさえ、快感になり始めていた。彼は最初なんと言っていただろう?そして私はそれになんと答えていただろうか……?
彼との口付けに気を取られていると、これ以上にない圧迫感と稲妻のような刺激が下半身の中心を貫いた。
「んんあっっ!!」
離れる互いの唇。下半身の中心から押し寄せてくる快感、苦しさを覚える圧迫感に瞳を開けた。蜜壷からギチギチと聞こえる音さえも、今か今かと待ち侘びていた彼の雄を突っ込まれ悦んでいる叫びにしか聞こえなかった。
「そんな声上げて……やっぱ本物の方がいいか?」
「もっと、もっとっ……」
「あぁ……そうかよ。くれてやるよ!」
そんなことない、と言おうとしたはずなのに口走った言葉は全く違うものだった。身体は全力でギュウギュウと彼の雄を締め付けているし、私の頭も段々それしか考えられなくなっていたからだ。
彼が腰を激しく動かす。下着を使い物にならなくしてしまう程の愛液に濡れた蜜壷は彼の激しい抽送を手助けし、出し入れされる度に嬉しそうに雄を呑み込む。そんな激しい腰遣いに私は非難の声を上げるどころか、快楽に溺れ荒い呼吸と甘い喘ぎをただただ吐き出すだけの機械のようになっていた。
『その心も身体も奪い、元には戻れねぇくらいに溺れさせてやるよ。俺にな……』
その通りだった。今はただ、彼から与えられるモノに身体を震わせては仰け反り、もっと欲しいと懇願するだけの女だ。
もしこれをウルキオラ様が知ったらどう思うだろうか。軽蔑するだろうか、それとも……まぁ、どうでもいいや。折角こんなに気持ちいいんだもの。そんなこと考えるなんて馬鹿馬鹿しいじゃない。
「グリム……ジョーさ、まっ!もっと、もっと激しいのをっ……くださいっ」
「ははっ……いい感じにメス犬じゃねぇか。好きだぜ、そういうのっ」
突然、彼が腰を引き、雄が蜜壷から引き抜かれる。物足りなさに思わず薄浅葱色を見上げると彼はいやらしく笑った。するとそれを合図に、一気に蜜壷を雄が貫いた。身体に一気に流れる電流。脈打つ蜜壷。白黒点滅する視界の中で身体が一瞬硬直した後、段々と身体の力が抜けていった。
「なんだよ……イッたのかよ。テメェ一人で……イヤラシイなァ」
「ご、めんなさい。グリム……ジョー、さま……」
「いや、許さねぇな。次に何が欲しいか言ってみろよ。それ次第で許してやるぜ?」
「グリムジョー様の、全てを……注いでくださいっ!私の中にっ!!」
「ああ、上出来だ」
そう言うや否や、彼は一心不乱に腰を打ち付けてきた。肌と肌がぶつかりあう音、擦れ合い、体液が絡みつく卑猥な音がこの空間を支配する。快楽に流されてしまわぬように必死にその広い背中に手を回してはしがみついた。そして更に深く、イイところに当たるように足も絡ませれば、彼の雄が子宮の入口を叩く感覚に打ち震えた。
気持ちいい、ただそれだけ。それだけを求めて貪り、そして溺れていく。
「っ……出すぞ、全部受け止めろよっ」
その瞬間、雄が最奥を強く貫いた。子宮口を広げたそれは大きく膨らみ、何度も脈打ちながら種を送り込む。その感覚に世界が点滅し始める程の快楽が押し寄せてきた。ただ、小さく喘いではそれを受け止め、浸る。
それでも尚、もっと、もっと欲しいと叫ぶ身体は、その蜜壷の肉壁を貪欲にひくつかせる。
まだ、まだ足りないと叫ぶ心は、彼が与える快楽を求めて情欲に溺れた。
「グリムジョー、様……もっと、ください」
「言っただろうが。その心も身体も奪い、元には戻れねぇくらいに溺れさせてる……ってな」
全てを喰らい尽くす程の激しさで
(心も身体も、その全てを……)それは甘い20題:12.奪いたい
(配布元:確かに恋だった)
(20170513)