平熱、微熱、キミの熱

「……気持ちいい」
「なんだ、突然」

悪いとは思いつつも、ソファーに座り本を読む瀬人を後ろからギュッと抱きしめる。そして頬に自分の頬をそっと寄せた。瀬人から伝わってくるヒンヤリとした冷たさに思わず声を漏らせば、パタンと音を立てて本を閉じた瀬人から不思議そうな声が返ってきた。それに対して「瀬人の頬、冷たくて気持ちいいなと思って」とそう答えれば、ちらりとこちらに視線を向けた瀬人は、その端正な顔の眉を怪訝そうに顰めた。

「きっと瀬人は体温が低い方なんだね」
「自分から進んで測った事などないから知らん。……で、そういうの体温は何度なんだ」
「んー、私?……普段は36℃くらい、かな」
「そうか」

短い返事が返ってきたと思ったら、瀬人が急に顔をこちらに向けた。コバルトブルーの瞳と目が合い、その透き通った色に見惚れたその瞬間、唇に柔らかい何かが触れた。それは瀬人の唇で、啄むような優しく軽いキスが何度も繰り返される。突然のことに何もできずにいると、瀬人はゆっくりと重ねていた唇を離した。
自分の唇に触れる瀬人の唇の感触……ふとそれを思い返すと、段々と自分の頬が熱くなっていった。……頬だけじゃなく身体中が熱を帯びて、手にはほんの少しと汗が滲み出す。……瀬人とのキスは全く慣れない。ただのキスのはずなのに、どうしようもなく恥ずかしくなってしまう。
……そんな私を見てか、瀬人は悪戯にニヤリと笑った。

「そんなに顔を真っ赤にさせて……本当に36℃か?」
「な、こ、これは瀬人が!」
「……オレがなんだ?」
「き、急にキスするから!」
「ほぅ……オレの所為か」
「そうですっ!」
「なら、オレが責任を持って改善してやる。……、脱げ」
「は……はい?」

改善?脱ぐ?……脱ぐ!?
え、ええっ……どうしてそうなるの!

、脱げといったのが聞こえなかったのか?」
「それは聞こえてる!そうじゃなくて、なんで脱がなきゃいけないの」
「俺の頬が冷たくて気持ちよかったのだろう?頬だけと遠慮せず、全身で感じれば良い」

そう言って瀬人は座っていたソファーから立ち上がると、着ていたワイシャツを脱ぎ、床へと放り投げる。そして私に向き直ると、おもむろに私の服へと手を伸ばした。そんな瀬人の顔を見上げれば、形の良い唇を弓なりに上げていたし、コバルトブルーの瞳は熱で大きく揺らめいているように見えた。

「な、なんでそうなるの!それ逆だから、絶対に熱くなるやつだからっ」
「ふん……バレたか。だが悪いな。俺はもうその気だ」

私の訴えも虚しく、瀬人の長い指先が私の服のボタンに触れる。そしてそれを一つ、また一つと外し始めた。



平熱、微熱、キミの熱

(そして、冷たいと思っていた彼の熱に呑まれていく。)


それは甘い20題:18.36℃
(配布元:確かに恋だった)
(20170813)