未来予想図

私の夢、私の思い描く未来。
ウェディングドレスを着て、貴方の隣に立つの……





「ねぇ、瀬人」
「何だ」
「今から十年後って……私達どうなってるんだろうね?」

「……突然何を言い出す。そんな事より目の前にある紙の山を何とかしたらどうだ」

瀬人が指差す先には、テーブルの上に山積みになったノートとプリントの山。明日やればいいやを繰り返し、ギリギリになって慌ててようやく手を出した夏休みの課題。それを彼に気付かれてこっぴどく怒られ、半ば強制的に彼の監視付きで片付けている最中だった。
始めてからどれ位経ったのか分からないけれど、もう文字や数式の羅列なんて飽きてきた。だから気分転換に話を振ってみたけれども……いや、質問の内容はもともと気になっていたことではある。何となく……まぁ、さりげなく聞けば答えてくれるかな、と。
結局はただ、目の前の現実を突きつけられただけに終わったけれども。

「……答えてくれてもいいじゃない」
「馬鹿馬鹿しい。そんな先の事まで考えていられるか」

手に持ってたシャープペンを放り投げて、瀬人の方を見る。彼はそんな事などどうでもいい、というような感じで優雅にコーヒーを啜っていた。それを見るとお湯が沸々と沸点を目指して行くかのように、無性に腹が立ってきた。私にとっては結構重要な事だったから、なんだか蔑ろにされたような気がして……

「私にとっては大問題なのよ!あぁ、ウェディングドレス着れるかなぁ……」
「女って奴は何故そんな事に拘るのか……オレには全く理解ができんな」
「もー、なによ!瀬人の馬鹿!嫌い!!」

ブチっと何かが切れる音と共にピークに達した。女の夢というのを彼は本当に全く分かっていない。好きな人……愛する人の隣でウェディングドレスを着て立つ、そしてその先にはどんな甘い生活が待っているのだろうか……そんな未来を誰だって思い描くと思う。兎も角、彼の発言で間違いなく、その思い描いていた未来は遠ざかっていった。
馬鹿!有り得ない!瀬人の馬鹿!!

「……そこまで心配する必要はないだろう。……何故なら」

一つ溜息大きな溜息をつき、手に持つコーヒーカップをテーブルに置くと彼は呆れながら言葉を発し、そして途中でそれを切る。

「何故なら?」

私は彼を見上げて言葉の続きを待った。
少しの沈黙の後、彼はニヤリと口角を上げて口を開いた。



「近い将来お前はオレの妻になっているからな……だから、ウェディングドレスとやらは心配などしなくても着れる」



「……何だ」
「ううん、何でもないっ」

見上げたまま、ぼけーっとしてる私を変に思ったのか彼は訝しげに声をかけてきた。慌てて何でもない感じに繕うけれど完全には無理みたいで。……彼の発言に頬が緩んでいくのを抑えることは出来なかった。

名前、顔がにやけているぞ」
「だって、嬉しいんだもの」

やはり指摘してきた目の前の恋人。それはもう、とても嬉しいのだから仕方がない。今もとても充実しているけれど、それでも十年後が楽しみで堪らなかった。

「せっかく貰ってやるんだ感謝しろ」
「あー、それって彼女に言うセリフですかぁ?」

意地悪な発言に頬を膨らませれば、彼は私の額に優しいキスを落としてくれた。



馬鹿って言ってごめんなさい。
嫌いだなんて言ってごめんなさい。

私、瀬人のことが大好きだよ。


未来予想図




(20080322)
※加筆修正(20170328)