それは見事に玉砕だった。君には最適な人が近くにいるから、だなんてよく分からない断わり方。
カーテンが棚引く開け放たれた窓。夕暮れの光が教室をオレンジに染め上げる。オレンジとディープブルーのグラデーションが作る、徐々に夜に向かっていくこの光景が、余計に虚しく悲しい気持ちにさせた。
「振られでもしたか」
「見てたの?瀬人」
教室の出入口から聞こえた声に、慌てて表情を引き締める。幼馴染みの海馬瀬人。何でも言い合える相手のようで、どうしてか、絶対に弱みを見せたくない相手でもあった。
「見ていたのではない、見えただけだ」
「どっちにしろ趣味が悪いわ」
「ふん、まぁ……よかったのではないか?」
そう言って、教室の出入口から離れて中へと、私のいる窓際に近づいてきた彼。何の気遣いもない、素っ気ない彼の言葉に少々腹が立った。何がよかったんだか。こっちは振られて悲しんでるというのに……デリカシーの欠片もない奴なのかこいつは。
「はい?振られた相手に向かって『よかったのではないか』ってどういうことよ」
「奴の噂で良いことは聞いたことがない」
「……そんなことっ」
「どうせ遊ばれて捨てられるのがオチだ」
「……っ!瀬人の馬鹿!」
振られてしまったけれど、好きだった人のことをここまで悪く言われて、自然と声を荒らげてしまう。そんなことない……あの人はそんなことない。何でそんなこと言うの……瀬人。
「……これでも慰めてるつもりなんだがな」
「まったくそんなふうに聞こえない!」
「そんな奴なんかとわざわざ付き合わなくとも、もっといいのがいると言っている」
その発言の直後、瀬人に腕をぐいっと引っ張られそのまま胸に倒れ込む形になった。突然の展開に顔が赤くなり、一気に心臓の鼓動が速くなる。なんで私は瀬人の腕の中にいるの……?
「っ……一体何をしてっ」
「こんなに近くにいるのにな?」
「じ、自意識過剰!」
「ふん、なんとでも言え」
瀬人の長い指が私の顎を持ち上げ、深いコバルトブルーの瞳と視線がぶつかる。いつも見慣れてるはずなのに、なぜか目を逸らすことができなかった。
それほどまでに、今まで見た中で真剣な眼差しに見えたから……
「オレと、付き合ってみるか?」
「なっ……」
これっぽっちも思ってもみなかった幼馴染みの言葉に、反論の声すら出なかった。寧ろ、一体何を言ってるのか理解するのに数十秒かかった気がする。
「ふっ……返事は今度聞こう。オレは先に帰る」
そう言って私を開放すると、自分の席に置いてあるカバンを持って、そのまま教室を出ていってしまった。
「なんて自分勝手な……」
でも、そんな瀬人に救われたのかもしれない。さっきまで振られて辛くて、あんなにも悲しかった筈なのに。
もし、瀬人と付き合うことになったとしたら、幼馴染みから恋人になるのかな……
ううん。なんだか想像がつかないや。
でも、ありがとう……
教室を染め上げる夕暮れオレンジ。さっきとは違って暖かく、穏やかに見えた。
部屋を染めた、夕暮れのオレンジ
(そしてほんの少しだけ、好きになれそうな気がした。)(20151009)
※加筆修正(2017/03/30)