私は彼のズボンへと手を伸ばし、ベルトの金具に手を添えた。カチャカチャと鳴る無機質な金属音。不器用な手先がベルトを外すのに手こずっていると、おもむろに彼の手がそこへ添えられ私を手伝った。ベルトが外され、ボタンもチャックも留める役目をなくし、ズボンは重力に従って下へと落ちる。彼にスカートを脱がされそして、どちらともなくベッドの白いシーツに身を沈めた。広いベッドは難なく私たちを受け入れては呑み込んでいく。
互いの身体を、手のひらを重ね、絡ませ合う。熱い体温を、肌の感触を身体に刻み込むように。
「好きっ……好きだよ瀬人」
「オレもだ。好きなんて言葉では全く足りないくらいに」
彼の艶のある心地よい低音が耳を掠めた。
言葉にできない……伝えられない愛しさに、また目尻から涙が溢れそうになる。それを隠すように彼の唇へキスを落とす。啄むように何度も。それでもどうしようもなくなって、涙が溢れた。彼はそれに気が付いたのか私から唇を離すと、目尻から溢れては頬を流れてく雫を舌で舐めとった。
「……やはり涙とはしょっぱいものだな」
「だって、……涙だもの」
答えにならない答えを返せば、彼は口角を上げて軽く笑った。
そして彼はおもむろに私の首筋へと顔を埋める。首筋、鎖骨、胸へと軽くキスを落としながら下りていくと、胸の突起を口に含んだ。その小さな刺激をに身体を小さく震わせれば、彼の舌先は突起を突き、そしてまるで絡め取るように愛撫を始める。今にも漏れ出しそうになる甘い声に、唇をしっかりと一文字に結ぶ。すると彼は突起を甘噛みした。
「ひゃぁあっ」
「オレの前で声を我慢するな。ちゃんと聞かせろ」
そう言ってはまた突起を口に含んだ。今度はもう片方の胸も手で揉みしだかれる。胸の形が若干歪むほどのそれでも、感じる痛みすら快感に変わっていく。その快感に声を抑えることも忘れ、彼が刺激を与える度に甘い吐息が零れ、身体は震えた。
ふと、彼が突然顔を上げた。ニヤリと満足げに笑んだコバルトブルーの瞳。そのコバルトブルーは微かに赤い熱を孕んでいるように見えた。その見え隠れする熱に目を離せないでいると、下半身の中心、下着越しに何かが触れた。
「んあぁっ……」
「胸の愛撫だけで濡れたのか?……可愛い奴だな」
そう呟いた彼の腕が僅かに動いた。湿った下着越しから秘部をなぞるように這う彼の指先。その焦ったさに思わず腰を動かせば、彼は悪戯な笑みを零した。
「腰が浮いているぞ?こんな小さな刺激じゃお前には足りないか?」
「ち、ちがっ……」
「……違わないだろう。オレがそう調教したんだからな」
そう零してはニヤリと笑う。けれども、その表情は次第に曇っていった。瞼を一度伏せたあと、「これくらいのことでしかオレをお前に刻み込めないだろう?」と切なげに低音が呟く。その言葉に自然と彼の頬へと手が動いた。彼のその頬に雫が伝っていなくても、どこか涙を流しているように見えたから……。その見えない涙に指先を這わせて拭えば、彼は私の手を取って、手の甲に小さくキスを落とした。
「おい……ずるいぞ。そういうのは」
「べ、別にずるくないでしょ」
「本当に……お前には参る……」
顔を隠すように彼は俯く。そして私の足元へと下がると私の下着を剥ぎ取り、秘部に顔を埋めた。突然のそれに肩が跳ね上がった。
彼の舌先が蕾を突き、敏感なところを責められ声が自然に漏れだす。彼の指先が秘部を広げると、更に重点的にそこを責め立てられた。蜜壺から溢れる愛液なのか、彼の唾液なのか……それともその両方なのか、ピチャピチャと水音が部屋に響き渡る。その生々しい音に頬が熱くなった。
「随分と濡れているな。そんなにオレのが欲しいのか?」
「……っ」
「返事がないようだが……それは肯定とみなすぞ」
突然、蜜壺を小さな圧迫感が襲った。それは彼の指で、溢れる愛液で濡れた蜜壺は難なくそれを呑み込む。するとまた圧迫感が襲った。彼の2本目の指。それも蜜壺に侵入してきては、まるで彼の雄が中にあるのを彷彿させるように抜き差しを繰り返す。壁を指が擦る度に吐息と声が口から零れ落ちた。
「2本目だが、これも簡単に下の口は呑み込んでいくな……」
「んはっぁ……」
「なんだ?気持ちいいのか、オレの指が……」
段々と限界が近付いてきているのがはっきりと分かる。押し寄せては、私を呑み込んでいこうとする快楽の波。それに抗い逆らおうと必死に耐える。彼と一緒に、同時に果てたかった……。
「せ……瀬人っ」
「……なんだ?」
「瀬人のがっ……ほ、欲しいのっ」
「っ……頼むからそんな表情で見つめるな。オレの理性がもたないだろう」
「瀬人でいっぱいにしてっ……瀬人を刻み込んで」
「……分かった。もうどうなっても知らんぞ」
一段と低い、思わず身体が震えてしまうほどの艶のある低音。彼は私の中から指を引き抜くと、口でゴムの入った袋を引き千切る。それを自身の雄に嵌めると、蜜壺へと宛てがった。雄の先端で蜜壺の入り口を擦るように何度もそこを往復する。焦れったさを感じるその刺激に早く入れてとせがめば、彼は腰をゆっくりと沈めた。指で慣らされたお陰なのか、蜜壺は彼の大きい雄を徐々に呑み込んでいく。その蜜壺いっぱいに彼の雄が収まっていく感覚に、この胸は嬉しさに悲鳴を上げた。
全てが蜜壺に収まりきると、額に汗を浮かべる彼が「動くぞ」と小さく呟いた。それに頷けば、激しい抽送が私を襲う。
「ひゃああっ」
「っ……どうなっても、知らんぞと、オレは言っただろうっ……」
十分に濡れているそこは、難なく彼の激しさに応えていった。彼の雄が擦れる感覚、最奥を叩く感覚……身体が打ち震えるほどの快感に次第に酔っていく。彼が動く度に自分のものとは思えない甲高く甘い声が漏れだし、愛液が蜜壺から溢れては伝い、己の太ももを汚していく。肌と肌がぶつかる音、愛液が絡む水音に二つの荒い吐息。それさえも快感になった。
激しい抽送が続き、近付きつつある快楽の波の頂点。ふと彼を見れば、何かに耐えるかのように眉を顰め大粒の汗を額から零していた。
「せ、とっ……私もうっ……」
「っ……ああ、分かっているっ……」
そう苦しげに呟いては、更に腰の動きを早めた。壁を擦ってはコツコツと奥の子宮口を雄が叩く感覚。そのあまりの快感に耐えきるのはとても難しいことだった。目の前がぼやけ、頭の中が白の絵の具をぶちまけてしまったかのように白に染まっていく……。指先が、足先が痺れ始めては蜜壷が収縮していく感覚に彼の名を叫ぶ。その瞬間、私の名を呼ぶ彼の雄が大きく膨らんだ気がした。彼の雄が私の中で脈打つ感覚。それに酔いしれては、その幸せに浸った。
もし彼の白濁とした欲をこの身体で受け止められたのなら、どれだけの幸福が私を襲うだろうか。ふと、そんなことを過ぎったがそれをすぐに掻き消す。夢のまた夢の話だ。叶いもしない幻想に想いを馳せるくらいなら、今この瞬間の幸せに身を委ねていたかった。
「私、幸せよ?瀬人……」
「ああ。オレもだ……お前をあ……」
そこで彼は言葉を切った。一瞬、切なげに揺れる表情を見せた、深いコバルトブルーの瞳。それもほんの一瞬だった。瞳を伏せ、私から雄を引き抜くと、後処理を黙々とし始める。……その手はどこか震えているような気がした。
この夜が明けたら、また離れ離れになってしまうだろう。私はこの広いベッドの乱れたシーツを片付けて、出張から帰る旦那を笑顔で迎えるだろうし、彼は奥さんが待つ自分の家庭に帰るだろう。
「瀬人……私もだよ」
言葉にできなくても、貴方に伝えることができなくても、私は……
貴方を愛してる―――
声に出さないまま、愛を叫んだ
(この罪を背負い生きていく覚悟なら既にできている。きっと彼も……)(20170729)