雨は全てを掻き消した

「雨か……」

ソファーに座る彼は、そう呟いた。



窓越しから伝わるひんやりとした空気。
時折窓を叩く雨は、月明かりとネオンの光る豪華な室内に、申し訳なさげにその音を響かせる。
ふと、外と室内の温度差で曇る窓ガラスに滴る雨粒を、滑るようにそっと指先でなぞれば、その跡がくっきりと残った。

「貴様に会う時はいつも雨だな」
「そうだっけ?……でも私、雨は好きよ?」
「ほう……その理由、是非とも聞いてみたいものだな」
「理由?いいわよ、教えてあげる」

彼の座るソファーに歩み寄り首元の緩んだネクタイに手を伸ばすと、それはシュルっと小気味の良い音を立ててそのまま床に落ちた。彼の程よい厚さを持った唇に銜えられた、まだ火を付けて間もない煙草を奪い取ると、それを灰皿に押し付ける。彼は特に怒るわけでも驚くふうでもなく、相も変わらず眉一つ動かさない、感情が読めない顔を保ったまま。
私を見据えたままピクリとも動かない彼の唇に自分のを重ねれば、仄かに鼻腔をくすぐる煙草の香り。そのまま彼の肉体を包み隠す白のシャツのボタンを、上から一つ一つ丁寧に外していく。
すると肌が外気に触れたからなのか、彼の大きな身体がピクンと小さく跳ねた。

「抱いて、瀬人……」
「ならばそれ相応の強請り方があるだろう?オレは教えた筈だが?」

私は彼の下に跪くと、腰のベルトに手を伸ばした。雨音の中に響くカチャカチャとベルトを外す音は何処か卑猥だと、ひとり思った。
ボタンを外してチャックを下ろせば、下着の上からでも分かるくらいには硬く盛り上がった彼の雄。それを取り出すと、唇でそっと口付けた。そしてそのまま咥え込む。すると彼はピクリと身体を震わせた。
優しく撫でるように舌を使い、裏筋を舐め上げる。喉の奥まで咥え込んだり、浅く舐めてみたり……緩急をつけながら彼を奉仕する。その行為に夢中になっているうちに唾液が滴り、カーペットの床にシミを作りだした。
彼の雄は最初に比べるとさらに大きさも硬さも増していった。それが凄く嬉しくて、もっと気持ちよくさせてあげたいと思った時、彼に肩を掴まれ止められた。

「ん……?」
「……貴様も脱げ」

そう一言彼は言うと、脱ぎかけの服を全て脱ぎ捨てて一糸纏わぬ姿になった。
私はワンピースのチャックを下ろすと、下着姿になった。そして彼に背を向けるとブラのホックを外すように強請る。彼は慣れた手つきでいとも簡単に片手でホックを外した。そのまま彼は私の肩紐を下ろすと、うしろから私の両胸を揉みしだいた。

「んんぁっ……」
「ふん……相変わらずこう強くされるのが好きなのか?」
「だって……瀬人のっ舐めてたら、早く触って欲しかったんだものっ……」
「……可愛い奴だな」

そう言って彼は私の胸の突起を弾いたり撫で回したりと、色々な方法で翻弄してきた。でも、まだまだ身体は物足りなかったのか、無意識に「もっと……」と呟いてしまった。

「欲張りな奴だな……」
「ひゃぁっ」

突然腕を引っ張られ、彼に引き寄せられる。そしてベッドの方へと押し倒された。ベッドはふたり分の体重で軽く沈んで、ギシッと音を立てた。
それから彼は間髪を入れず、私の胸の突起に口付けると舌で突起を転がし始めた。それがあまりにも気持ちよくて身体が小刻みに震え始める。そして急に下着の上から秘部をなぞられ身体がピクリと揺れた。

「んんっ……せ、とっ」
「何だ?もうこんなにもぐしょ濡れではないか。これでは下着の意味を成さないな」

彼はニヤリと嬉しそうに半ば強引に下着を脱がし私の両足を広げると、秘部が彼から丸見えの状態になってしまった。

「いやぁあ……」
「嫌、だと?身体はこんなにも嬉しそうだぞ?蜜をこんなにもはしたなく垂れ流しているのだからな」

彼は私の秘部へ長い指を滑らせると、愛液のついた指先を私に見えるように口の中に含んだ。

「っ……!?」
「何を今更恥ずかしがっている?何度もしてきたことだろう。それに……これからもっと、するのであろう?」

彼は悪戯に口元に弧を描いて笑うと、雄を秘部に何度も押し付け擦り始めた。雄の先端が敏感になっている蕾に触れる度に、ピクピクと身体が震えてしまう。早くそれを私の中へと入れて欲しいと、思わず腰を浮かしてしまった。

「もの欲しそうな瞳で腰を浮かせ……何だ、もう欲しいのか?……ククッ、いいだろう。くれてやるっ」
「ひやぁああっ……」

その瞬間、大きな質量の硬いモノが一気に私の中を貫いた。私の身体を襲うあまりの快楽に、ただただ喘ぎ声を上げ、全身を痙攣させることしか出来なかった。

「ククッ……挿入しただけでイッたのか?淫乱な身体だな……」

身体を震わせ苦しげに荒く息を上げる私に、彼は海色の瞳を細めて嬉しげに呟く。そして少しの間、私の中で動かずにいた彼の雄がゆっくりと抽送をし始めた。

「えっ……ちょっと……まっ、待ってっ!」
「待たん」

彼は私の片足を掴むと、もっと奥の方、子宮口まで雄を捩じ込んだ。奥の方にコツコツと先端が当たる感覚に酔いしれ何度も意識を失いそうになる。それでも彼は腰の動きを止めることはなく、ただ虚ろに甘い声を上げ続ける私を海色の瞳で見下ろしていた。

「……そういえば、貴様が雨が好きな理由、まだ聞いてはいなかったな」
「そ、そんな話っ……覚えてないっ」
「ほぅ……動きを止めて欲しいようだな」
「あっ……だ、だめっ……止めないでぇ」
「……ならば、言うのだな」
「あ、雨の日はっ……全てを洗い流してくれる。消し去ってくれるからっ……」
「……意味がわからんな」

そう言ってひとつ溜息を吐くと、彼は腰を速めた。気が狂いそうになるくらいの激しく犯す抽送に何度も何度もイカされた。
肌と肌がぶつかり合う音に体液が肌に張り付いて粘る卑猥な音。それらが雨の音に混じりながら耳をも犯す。

雨は全てを洗い流してくれる。
彼に抱く想いも、感情も、全て。
この関係の最初は何だったっけ……
彼が何をどう思って、この身体だけの関係を今も変わらず続けているのかは分からない。知りたいとも思わない。きっと、聞きたくない言葉を聞くことになるかもしれないから……
だから、この関係が終わりを告げるその時まで。少しだけでも、一時でも彼の傍にいられたら……こうして彼に求められるだけでも十分。










ふと、奥底に欲望の赤紫色の熱を秘めた彼の海色の瞳が、何か言いたげに目を細めた。そして何かを言おうとして口を開きかけては、ほんの一瞬どこか辛そうな表情を浮かべて言葉を発することなく噤んだ。そう、ほんの一瞬。
そして私の頬を恐る恐る触れては、撫ぜる細長い指先。私の大好きな彼の指先。

どうかお願いだから、そんな優しく私に触れないで。そんな眼差しで私を見ないで。勘違いしてしまうから……


段々と彼の限界が近づいてきたのか、苦しげに眉を顰めた。

「出すぞ……っ」

その台詞とほぼ同時、私の中で彼の雄が大きく膨張した。そして大きく脈打つと、何かが子宮口を叩いた。その感覚に私は身震いし、彼の吐き出す体液を中で受け止める。

そう……私はただ此の儘、この雨音の中で快楽に身を委ねればいいだけ。



雨は全てを掻き消した

(この欲に溺れ狂う声も、愛しいと声を上げるこの胸の悲鳴も)


(20180801)