欠けた愛を探してる

『瀬人には愛が足りない』
何時だったか…付き合った女にそう言われた事がある。
その時は特段気にも留めなかった。ああそうか、オレが気に入らなければ離れればいい、と言ってやった。何故か女は泣きじゃくりながら、別れたくないとかほざいていたが。

何故突然そんなことをふと思い出したか……。最近関係を持った取引先の女に似たようなことを言われたからだ。





「瀬人さんって、愛が足りない、って言われたことあるでしょ」

控えめに開け放たれた窓、風で揺れるカーテン。
先程の行為の熱を冷ますように風に当たるのはバスローブを纏った女。乱れた髪を整えながらオレに視線を向けることなく女はそう呟いた。

「……何故そう思う?」
「そうね……何となくそう感じた」
「当たり前だ。そもそも貴様に恋愛感情など抱いていない」
「でもこうして身体を重ね合わせていると、意外と分かったりするものよ?」
「ほぅ……」

興味深い。単純にそう思った。
ただ欲望の捌け口として抱いているだけの女に言い当てられたのだ。

女は振り返ると、ベッドに腰掛けるオレに視線を向けて話を続けた。

「こうして恋人でもない女を抱いている。怖いんでしょ?恋人を作ったらまた同じことを言われるんじゃないかって」
「怖いだと?……ほざけ。貴様を抱くのも、ただ男としての欲望を満たしているだけだ」
「そうかもしれない。でもそう言いつつも愛を求めてる。違う?」
「オレが……愛を求めてるだと?ククッ……下らんな」

そうは言ってみたものの、どういう訳か……少し焦りを感じた。
……そもそも愛とは何なのか。それすら分かっていないことに気が付いた。だがそれを考えれば考える程に分からなくなってくる。
恋人を作れば、嫌でもそれは付いて回ってくる。
それに比べて恋人でもなんでもない女を抱いているのは楽だ。何も考えることなどない。煩わしいことは何一つない割り切った関係。
だが、物足りないのだ。いくら抱いても抱いても満たされない。
その満たされないもの、オレに欠けたものが“愛”なのか……?



「瀬人さん、眉間に皺が寄っているわよ?」

いつの間にか窓を離れ、オレの目の前にいた女。
女の指先がオレの眉間を軽く小突いた。

「貴様の所為だろう」

溜息交じりにそう呟けば、女はごめんなさい、とわざとらしく肩をすぼめてみせた。

「そこまで言うのだ。貴様が教えてくれるのか?その“愛”とやらを」
「さぁ。私も似たようなものだから」
「……似た者同士という訳か」

何だかんだ言ってきた割にはこの女もオレと同じらしい。

突然、女は指先をオレの頬へ撫でるように這わせた。
思ったより冷たい女の指先に思わず肩が跳ね、睨むように女に視線を向ければ目が合った。女はどこか挑戦的な色を携えたその瞳でオレを見据え、形の良い艶やかな唇を弓形に上げた。

「でも、試してみるのもいいんじゃない?」
「……試す?」
「別に好きから始めるのだけが恋愛じゃないでしょう?」
「それには同意だ。ならば今この瞬間から“恋人同士”という訳か」

どちらからともなく、二つの唇が重なり合った。
この女がオレに欠けた“愛”を教えてくれるのならば、それはそれで面白い。






○診断メーカー、お題
海馬くんへのお題は『欠けた愛を探してる』です。
https://shindanmaker.com/392860
(20170927)