もっと触れて、奥まで

ふと、隣に座る瀬人の右肩に頭を預ければ、瀬人は私の頭を撫でるように髪を梳き始めた。
優しく、一定のテンポで繰り返されるその心地良さに瞼を閉じる。
けれども時間が経つにつれどういう訳かだんだんと切なくなってきて、目尻に涙が浮かんだ。
それは目に映るものを滲ませ始めるほどに溜まっていく。それを隠すように瀬人の胸に顔をうずめれば、その瞬間、一気に涙が溢れだした。
大切で愛しい人がこんなにも近くにいるというのに、もし彼を失ってしまったら……とふとそんなことを考えてしまったら、それが怖くて堪らなくなって急に寂しく感じた。



「……一体どうした?そんなに頬を涙で濡らして」

私の涙で胸元が濡れていくことに気が付いたのか、瀬人は私の髪を梳く手を止めると、そう呟いた。
長い指先が私の顎を捕らえ、優しく上へと持ち上げる。すると深い海の色をした穏やかな瞳と目が合った。そして、ゆっくりと近付いてくるのは瀬人の端正な顔。
瀬人は私の目元へ唇を寄せると、雫で濡れた目尻をひと舐めした。


急に寂しくなってしまったから、瀬人に触れて欲しい、瀬人を感じたい……とそんな風に素直に言えない私は彼にキスをせがんだ。

「瀬人……キス、して」

そう告げて瞼を閉じれば、唇に触れるだけのキスがひとつ降ってきた。
物足りなさに瀬人の服を掴んで、もっと、と強請る。すると瀬人は啄むようなキスを数回、私の唇に落とす。けれどもそれだけで、それ以上は何もしてこなかった。
まるで焦らしているかのような瀬人のキスに痺れを切らした私は、もっと触れて、と言葉で訴える。

「瀬人、焦らさないで……もっと触れてほしいの……奥まで……」
「ククッ……今日の貴様は甘えん坊だな。しかし、そんな風に言われてしまっては抑えがききそうにないな」

そう瀬人が呟いたあと、急に視界が回った。
私の隣にいたはずの瀬人はいつの間にか私の真上にいて、さっきまでの穏やかなものとは違う、深い海の色の中に熱を孕んだ瞳が真っ直ぐに私を見据えていた。
そこで私は瀬人に押し倒されたのだと理解する。

「それに、奥まで触れてほしい、と。そんな台詞を聞かされて男が考えることなど一つだ。……今ならまだ間に合うぞ?」

耳元で囁かれた、艶の増した瀬人の低音。耳に掛かる熱の籠った吐息に思わず身体が震えた。

「それでいいの……だから感じさせて、瀬人のことを……」
「っ……一体貴様は何処でそんな台詞を覚えてきたんだか。……良いだろう。その身にオレを感じさせてやる。嫌という程にな」






海馬くんへのお題は『部屋に残ったラストノート・もっと触れて、奥まで・手を繋いで、笑って、いつまでも』です。
#ふわあま
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(20180508)