ソファーに座り本を読む瀬人をそっと後ろから抱き締める。
すると彼は読んでいた本をパタンと閉じ、ゆっくりと私の方を振り向いた。
「ねぇ瀬人……愛してる」
「……ああ、オレもだ」
私の嘘に、瀬人はそう答えて深い海色の瞳を細めて柔らかく微笑んだ。
とても胸が苦しくなった。
私は貴方を騙しているというのに、こんなに汚い私を貴方は純粋に愛してくれていて……
「んっ……」
突然視界が暗くなったと思った瞬間、塞がれた唇。
私の唇を塞いだのは瀬人の唇で、私は瀬人にキスされていた。
何度も啄むような軽いキスの後、瀬人が私の口全体を咥え込むように下唇を食むので、私はそれに応えるように瀬人の上唇を食んだ。
私より年下だとは到底思えないキスに翻弄された後、ゆっくりと唇が離れる。
「っ……突然どうしたの、瀬人」
「貴様、眉間に皺を寄せていたぞ。考え事か?」
瀬人は続けて「オレといるのにオレ以外の事を考えていたら許さんぞ?」と、口の端を上げて悪戯に笑った。
すべてが嘘だと言ったら貴方はどんな顔をするのかしら。
私が貴方に向けるもの全てが偽りだと知ったら?
それを思うと貴方の悲しむ顔が浮かんで、まだ甘い夢の終わりを告げられないでいるの。
――――――――――
貴様はオレに囁く。
オレが気付いているとも知らないで、貴様はオレに切なげに愛を囁くのだ。
知っていた。
貴様がオレに向けるもの全てが、偽りだということを……
それでもオレは貴様へのを想いを断つ事が出来ぬのだ。
「瀬人……?」
不思議そうにオレを呼ぶ声。
ふと気付けば、オレはソファーから身を乗り出し小さなその身体を抱き締め返していた。
その身体は温かく、伝わってくる胸の鼓動はとても心地よく……
すると、綺麗に整えられた指先がオレの頬を撫でた。どうしたの?、と心配そうに首を傾げられる。
抱く両手に自然と力が籠る。
どんな事があっても此奴を離したくはなかった。
すべて知っている、とそう告げたら貴様はどんな顔をするだろうか。
貴様がオレに向ける全てが偽りだと気付いていると知ったら?
だがオレはそれを告げられずに、ただ甘い夢をこの両腕に閉じ込めたまま手放す事が出来ずにいるのだ。
○診断メーカー、お題
海馬くんへのお題は『私がどんな女かも知らないで、』です。
https://shindanmaker.com/392860
(20180508)