角砂糖を溶かして

「貴様……甘党だったか?」
「……え?」

突然聞こえた瀬人の声にハッとなって、真横に座る瀬人に視線を向ける。
右手にコーヒーカップを持ち、中身を啜っていた瀬人は、テーブルに置かれた私のコーヒーカップとその隣のシュガーポットを指さした。
瀬人の指さすそのカップへ視線を落とすと、コーヒーの褐色の海に溶けかけの角砂糖がプカプカと浮かんでいた。それも何個か入れたあとのようで、コーヒーのかさは最初よりも随分と増しているような気がした。

「そんなに角砂糖を入れるまで甘党だったか、と聞いている」
「……ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「ほぅ……貴様はオレと居るというのに呆ける余裕があるのか」

瀬人はそう言ってカップをテーブルの上のソーサーに戻す。そしてシュガーポットから角砂糖を一つ取り出すと、それを口の中に放り込んだ。

「せ、瀬人!?」

突然の行動にびっくりして思わず声を上げる。そんな私を余所に、瀬人は角砂糖を口内で転がし始めたのか、カランコロンと音を鳴らす。
そして瀬人はおもむろに私へ指先を伸ばすと私の顎を捕らえた。

「……口を開けろ」
「え?な、何で……」
「……さっさと言う通りにしろ」

そう言うので、仕方なく瀬人の言う通りに口を開けた。すると今度は舌を出せ、と言ってきたので、取り敢えずそれにも従う。意味が分からないまま瀬人の言葉を待つけれども、瀬人はそれ以上何も言ってこなかった。その代わりに、瀬人はゆっくりと私にその端正な顔を近づけると、私の舌に噛み付くようなキスを落とす。
その瞬間、口の中に何かが転がり込んできた。甘くザラザラした、溶けかけの何か……それは瀬人がさっき口に放り込んでいた角砂糖だった。

「んんっ……」

瀬人は舌先で私の口内に角砂糖を押し込めると、ねっとりと舌を絡ませてきた。
ふたつの舌の上で踊りながら、私と瀬人の間を行ったり来たりする角砂糖。そして角砂糖が小さくなるにつれて甘さが増していく口内。その程よい甘さがやみつきになり、瞼を閉じ、もっと、と欲しがる子供のように私も舌を絡ませる。角砂糖は私たちの熱でだんだんと溶けていき、移動する度に唇の端から甘い唾液が顎を伝い落ちてポタポタと床へ落ちていく音が聞こえた。

「っはぁ……」

角砂糖が完全に溶けてなくなると、瀬人は私からゆっくりと唇を離した。
この舌に残るのは角砂糖のザラザラとした感触と、舌を絡ませ合った熱……そして、微かな甘み。
その感覚に、もう少し味わっていたかったと言わんばかりに身体が急に火照りだした。それを振り払う様に閉じていた瞼を開ければ、海色の瞳と目が合う。全てを見透かされてるかのような深い目の色に何だかいたたまれなくなって俯こうとするも、瀬人の指先がそれを阻む。

「どうした?……物足りない、と言いたげな表情をしているな」
「っ……そんなことない」
「何も言わなければ、何もせんぞ?」

クツクツと楽しげに喉の奥で笑う声。

悔しいけれども、物足りない、と……またして欲しいと思っているのは事実で。

「瀬人……もっと、して欲しい」
「いいだろう。但し……」

そこで瀬人は言葉を切る。
そしてシュガーポットからまたひとつ角砂糖を取り出すと、私の唇にそれをそっと押し当てた。

「……今度は貴様から、だ」






○診断メーカー、お題
海馬くんへのお題は『角砂糖を溶かして・やきもちやいたのだぁれ?・片恋連鎖』です。
#ふわあま
shindanmaker.com/276636
(20180508)