飲み下した劣情

「……貴様、何のつもりだ?」
「え?……男の人ってこういうのが好きって聞いたんだけど」

目の前にはフリルがふんだんにあしらわれた白いエプロンを着た彼女の姿。
……それだけであれば何の問題もないだろう。だが、その白いエプロンの下は何も着ていないのだ。そう……簡単に言うなれば、裸というやつだ。
必要最低限、隠れていなければならない所は隠れているとはいえ、その刺激的な姿に思わず顔を逸らす。
横から見えそうで見えない膨らみ、エプロンの上からでも分かる胸の突起、丸みを帯びた身体のライン。男の劣情を煽るその姿に身体が熱を帯び、中心が疼くのを感じた。

……クソッ、何を考えてるのだオレは。



「貴様……一体誰にそんな事を吹き込まれた」
「えっと……城之内くん?」
「……なんだと?」

此奴の唇から零れたのは聞きたくもない奴の名。
凡骨め、図々しくもオレの女に話しかけた挙句にくだらん事を吹き込んだのか……。次に会った時、徒では済まさん。
だが……今は取り敢えず、この状況をどうにかしなくてはならない。


「いいか、取り敢えず服を着ろ」
「……瀬人は嫌だった?」

シュン……そんな音が聞こえてくるような、叱られた子犬のように悲しげな表情を浮かばせる。

「っ……そ、そうは言っておらん」
「それじゃあ、好きなの?」

オレを見上げるのは、潤んだ不安げな瞳。
すこしやり方が不味かったとはいえ……此奴は此奴なりにオレを喜ばそうと動いたのだ。
それに、好いている女のこのような格好を見て、興奮……い、いや心を動かされない男などいないだろう。

「……ど、どちらかと言えば……き、嫌いではない、な」
「良かったあああ!」
「っ……!?」

此奴は満面の笑みでオレに飛びついてきた。
その突然の出来事に、オレは身体を固めることしか出来なかった。至近距離で見える胸の谷間、布越しに伝わる胸の柔らかい感触にぬるい体温。

もうどうにかなってしまいそうだった。
今すぐにこのまま押し倒しその薄布一枚を剥ぎ取り、此奴の身体を全身隈無く愛でて、そして抱き倒したい。
そんな劣情の塊が波のように押し寄せてはオレを呑み込んでいこうとする。

「……貴様、オレを煽っているのか?」
「瀬人?」
「その様な格好をして男に飛びつくなど……“食べて欲しい”と言っているようにしか見えんぞ」

オレがそう言った瞬間、此奴は驚いた表情を見せた。全くそんな事など微塵も想像していなかったし、そんなつもりもありませんでした、と言いたげな顔。
思わず溜息が零れた。
オレだったからまだ良かったものの、此奴がもし他の男にこんな格好を見せていたら、そして飛びついていたら……そう思うと身の毛がよだつ。

「いいか、よく聞け。絶対に他の男にそのような格好を見せるな」





「……勿論、瀬人だけだよ?……その、瀬人にだったら私……食べられてもいい、かな」

少しの間のあと、此奴は恥ずかしそうに俯き加減でそう呟いた。
その言葉に、劣情を飲み下そうとしていた筈の理性が見事に砕け散った音が脳内に響く。

「いいんだな?……これだけ煽られたのだ。もう抑えることなど出来んからな?」






○診断メーカー、お題
【海馬くんへ三つのお題】飲み下した劣情/君が愛したのは僕じゃない。/思い込みだけで、決してそれが全てじゃない。
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(20180508)